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神戸地方裁判所 昭和55年(ワ)338号 判決 1985年12月12日

原告

株式会社共和商事

右代表者

塩河正

原告

塩河正

原告ら訴訟代理人

荒木重信

松下宜且

被告

北阿萬農業協同組合

右代表者理事

西山高廣

被告

中村一男

豊田健一

西山治

三善文夫

島田昇

林美左男

樫本昭

稲山忠利

林久行

亡安田圭吾訴訟承継人

安田久子

同承継人

安田容子

右法定代理人親権者母

安田久子

被告ら訴訟代理人

山本寅之助

藤井勲

八代紀彦

主文

一  原告塩河正に対し、被告中村一男、同豊田健一、同西山治、同三善文夫、同島田昇、同林美左男、同樫本昭、同稲山忠利、及び同林久行は各自金二四五六万一〇一〇円、同安田久子は金八一八万七〇〇三円、同安田容子は金一六三七万四〇〇六円及び右各金員に対する昭和五六年一二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告塩河正のその余の請求及び同株式会社共和商事の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告株式会社共和商事と被告らとの間に生じたものは同原告の負担とし、原告塩河正と被告北阿萬農業協同組合との間に生じたものは同原告の負担とし、原告塩河正と被告北阿萬農業協同組合を除くその余の被告らとの間に生じたものはこれを二分し、その一を同原告の、その余を同被告らの各負担とする。

四  この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)  被告安田久子及び同安田容子を除くその余の被告らは、各自、原告株式会社共和商事(以下「原告会社」という。)に対し六〇〇万円、原告塩河正(以下「原告塩河」という。)に対し四九一二万二〇二〇円及び右各金員に対する昭和五五年四月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被告安田久子は、原告会社に対し二〇〇万円、同塩河に対し一六三七万四〇〇六円、被告安田容子は、原告会社に対し四〇〇万円、同塩河に対し三二七四万八〇一二円及び右各金員に対する昭和五五年四月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告北阿萬農業協同組合(以下「被告組合」という。)は農業協同組合法一〇条に定める事業を目的とする農業協同組合であり、その系列子会社として、農林水産物及び加工食品の売買等を定款上の目的とし、現実には被告組合の地区内で生産する牛乳、野菜等の販売を目的とするいわば被告組合の生産物販売部門を独立させたものというべき株式会社丸北(昭和五四年一一月八日に変更する前の商号は丸北商事株式会社。以下単に「丸北」という。)を有していた。

丸北は被告組合の肩書敷地内に本店を、神戸市兵庫区西柳原町二―一に神戸営業所を、兵庫県洲本市本町七―二―五に洲本営業所をそれぞれ置いたうえ、神戸十合百貨店に売店を出し、その外に牛乳自動販売機九七台、牛乳陳列ケース一一二台等を設置して牛乳の販売等をしていた。

被告中村一男、同豊田健一、同西山治、同三善文夫、同島田昇、同林美左男、同樫本昭、同稲山忠利、同林久行及び承継前の被告安田圭吾は、昭和五三年から同五五年にかけて被告組合の理事(但し、被告中村は代表理事〔組合長〕、以下「中村ら」というときは以上一〇名の者を指す。)であつたうえ、右被告らのうち被告三善及び同林久行両名以外の者は丸北の取締役(うち安田圭吾は代表取締役でもあつた。)で、右被告三善及び同林久行はその監査役であつた。

なお、丸北には、右被告らのほかに取締役として堺善作(以下「堺」という。)がおり、同人は被告組合の従業員の身分を保持したまま丸北神戸営業所の責任者として出向し、代表取締役安田圭吾の下にあつて同営業所の業務一切を取り仕切つていた。

2  堺の不法行為と原告らの損害

(一) 事実経過

(1) 堺は、丸北の神戸営業所長として、「神戸市兵庫区西柳原町二番地の一 丸北商事株式会社神戸営業所 取締役所長 堺善作」の名の下に、手形及び小切手の振出、裏書、保証等をする権限を有していたところ、訴外昭和工業株式会社(以下「昭和工業」という。)の求めに応じ、右権限を濫用して、別紙約束手形目録の各約束手形(以下「本件各手形」といい、個々の手形については「番号1の手形」のようにいう。)のうち、番号1ないし15の手形の振出人欄に前記肩書名称をもつて各記名捺印をし、また、番号16の手形の第一裏書人欄に同様の名称をもつて記名捺印をし、本件各手形をいわゆる融通手形として同会社に振出し又は裏書交付をした(以下「本件各手形の発行」というときは、右振出及び裏書行為を指す。)。

(2) 原告らは、昭和工業の依頼により、堺に対し電話で本件各手形発行の事情につき問い合わせのうえ

イ 原告会社は、昭和五五年一月一八日、番号1の手形を割引取得し、

ロ 原告塩河は、番号11の手形を昭和五四年一一月一六日に、番号12ないし15の手形を同月二四日に、番号16の手形を同年一二月二一日に各割引をしてこれを取得し(以上合計六通金額一七一二万二〇二〇円)、

ハ 番号2の手形は昭和五四年一一月二四日に、番号3ないし5の手形は同月一九日に、番号6ないし9の手形は同年一二月二五日に、番号10の手形は同年一一月一六日に(以上合計九通金額三二〇〇万円)それぞれ原告塩河において手持資金がなかつたのでその友人にその割引方を依頼し、同原告の信用によつて右友人をして直接昭和工業からこれを割引き取得するに至らせた。

(3) 丸北と昭和工業は、昭和五五年一月二五日に倒産し、両者ともまもなく破産宣告を受けたので、本件各手形はいずれも各支払期日に不渡りとなり、破産手続によるのほかその支払を得ることはできなくなつた。

そして原告塩河は、前記(2)のハのとおり同原告の信用のもとに手形を割引いてくれた友人から同記載の約束手形を買取り、右各手形を所持することとなつた。

(4) 神戸地方裁判所洲本支部昭和五五年(フ)第一号の丸北の破産事件に関し、同五七年四月原告会社は五五万七一九五円の、原告塩河は四五六万一七六〇円の各配当を得たので、これらをそれぞれ原告らの有する本件各手形債権の利息(年六分)に充当すると、これらは共に少くとも同五六年一一月三〇日までの利息に相当する。よつて、原告会社の債権は、元金六〇〇万円とこれに対する同年一二月一日から完済まで年六分の割合による利息が、原告塩河の債権は、元金四九一二万二〇二〇円とこれに対する同月一日から完済まで年六分の割合による利息が各残存することとなる。そしてこれらの債権はもはやこれを回収することができない。

(二) 堺の故意又は過失による不法行為について

(1) 堺は次のような事情があるにもかかわらず、本件各手形を発行したもので、同人の右行為は不法行為を構成する。

イ 当時堺が昭和工業に対し発行した融通手形の総金額は多額にのぼつており、客観的にみて同会社がその決裁をいつ停止するかわからない状況にあつたというべきところ、堺はこれを知つており又は知りうべきであつた。

ロ 本件各手形につき昭和工業が支払を停止した場合は丸北がこれを支払うべきこととなるが、同手形の発行は丸北の承認を得たものでないから、丸北には右支払をする意思がなく、またその資力もないことを堺は熟知していた。

ハ 本件各手形は融通手形として昭和工業が第三者に割引を依頼するものであつたうえ、右割引先の中には堺が取引先である東洋コーヒーの社長に依頼して昭和工業に紹介させた原告塩河及び原告会社が含まれていたところ、本件各手形につき昭和工業あるいは丸北が支払をしない場合、昭和工業に対し同手形を割引いた右原告らその他の第三者が最終的に右割引交付金相当額の損害を被ることを堺は知つており、又は知りうべきであつた。

(2) 仮に、堺の前記本件各手形の発行が不法行為にならないとしても、原告会社の代表者である塩河が、右代表者又は個人としての立場において、本件各手形を割引きあるいはその友人に割引を仲介するにあたり、丸北が同手形を発行した事情について堺に電話で問合わせた際、同人は同手形が商取引によつて正当に振出ないし裏書されたもので、右振出ないし裏書人たる丸北の背後には被告組合がついているから、満期に決裁されることは間違いない旨虚偽の事実を申し述べ、よつて塩河をして同手形が確実に決裁されるものと誤信させて前記原告らにこれらを割引かせたもので、堺の右行為は不法行為を構成する。

(三) 原告らの損害の発生

原告らは、堺の右行為の結果、前記のように少くとも手形金額相当額の損害を被つたもので、堺の右行為と原告らの右損害との間には相当因果関係がある。

3  被告組合の責任

(一) 民法四四条一項による責任

(1) 被告中村らは、被告組合の理事として、被用者である堺の事業の執行についてこれを誠実に監督し指導する義務があつたところ、堺の出席を得て毎月一回、被告組合の生産物販売部門の性格を有する丸北神戸営業所の業務監査及び年に二回の会計監査を行なつていながら、しかも、昭和五〇年から同五一年ころにかけての穀内定爾組合長の時代に、既に総高砂屋、東洋コーヒー、昭和工業等との間に不審な取引があることが判明しており、また、丸北神戸営業所の総勘定元帳の記載を見れば、総高砂屋、東洋コーヒー、昭和工業の記載で埋め尽くされていると言つてもいいほどこれらの会社の名前がひんぱんに出ているにもかかわらず、全く形式的な監査をすることに終始し、その経理内容を深く調査研究しなかつたため、堺による前記融通手形の乱発を看過し、その結果、原告らに前記損害を生ぜしめた。

(2) すなわち、被告中村らは、被告組合の理事として、当然に尽すべき堺の監督指導という職務を怠つた不作為による不法行為のために、堺の原告らに対する前記不法行為を招来させたものであるから、被告組合は民法四四条一項の規定により、原告らに対し不法行為責任を負う。

(二) 民法七一五条の使用者責任

(1)イ 丸北は被告組合の事業目的達成のためにその販売部門を独立させた形の会社で、その取扱い商品の主たるものは被告組合から仕入れる農産物であり、被告組合はその被用者たる職員の堺をここに出向させて働かせていた。

そして堺は、原告らが昭和工業及び丸北神戸営業所等に関係を持つに至つた昭和五四年六月一日当時与えられていた丸北の手形、小切手を発行する権限を濫用して、前記のとおり、昭和工業の依頼により次々に融通手形を乱発していつたものであるが、この融通手形を取得するに至つた原告らの側からみれば、それは堺の外形上有効な「被告組合の事業の執行につき」した行為というべきであり、前記のように手形割引に際し原告塩河のした問い合わせに対し正当な約束手形である旨応答する等した堺の言動も又同様である。

ロ 堺の右二段にわたる行為は不法行為となること前記のとおりであるから、その使用者たる被告組合は、丸北とともに民法七一五条の使用者責任を負わなければならない。

(2) 仮に堺の右行為につき使用者責任を負うのは丸北であつて、被告組合には右にいう直接の使用者責任は認められないとしても、

イ 被告組合と丸北との間には次の諸事情があつて、両者の間は極めて密接な関係があり、さらに、堺は被告組合の職員たる地位を保持する被用者でもあつたから、被告組合は堺に対し直接監督し指導できる地位にあり、現に丸北の監査にあたつては被告組合の理事も立会いしていた。

(一) 被告組合は、その傘下の組合員が生産した農産物の販売をすることをその事業の重要な一部門としていたものであるところ、これの流通販売の合理化をはかるため、昭和四一年三月一六日右販売部門を独立させて丸北を設立したものである。

(二) 丸北の発行済株式総数八万株(資本金四〇〇〇万円)のうち六万株(同三〇〇〇万円相当)は被告組合が出資保有していたものであり、その余の二万株(同一〇〇〇万円相当)は同被告組合員らが少額ずつ出資していたものであつて、実質上両者の構成員は同一である(株主総数は四六九名)。

(三) 被告組合の理事一〇名全員は、前記のとおり、そのまま丸北の役員になつていた。

(四) 堺は、かつては被告組合に勤務し、その販売課長の地位にあつたものであるが、丸北を設立するにあたりその営業面における手腕を買われて丸北の常務取締役として派遣されたものであつた。

(五) 丸北には独立した本社事務所は存在せず、その本店は被告組合の主たる事務所と同一地番が表示され、事実上も丸北の事務所は被告組合の事務所内にあつて、同組合の事務の一部門としてその職員によつて丸北の事務がとられていた。

(六) 丸北は昭和五二年三月期決算において多額の欠損を出したが、その際、丸北の営業を被告組合が引取ることを条件に、その精算のため被告組合が八〇〇〇万円の金員を支出したことがあつたし、また、同五三年二月ころの被告組合の臨時総会において丸北を同被告が吸収する旨の決議もされた。

ロ そして、堺の前記行為は原告らに対する不法行為を構成すること前記のとおりであるうえ、堺の前記行為は実質上また外形上被告組合の「事業の執行につき」なされたものとみるべきであるから、結局、被告組合は民法七一五条の使用者責任を負うべきである。

4  被告組合以外の被告らの責任

(一) 前記のとおり、被告中村らは、昭和五三年から同五五年にかけて全員被告組合の理事として、また被告三善、同林久行を除くその余の者らは丸北の取締役(うち安田圭吾は代表取締役)として、共に前記のように被告組合の業務でもあり丸北の業務でもある堺の業務執行行為を直接に監督指導すべき地位にあり、さらに、被告三善と同林久行の両名は、丸北の監査役として、丸北の会計の帳簿及び書類の閲覧をし又は取締役に対して会計に関する報告を求め、又は必要があるときは丸北の業務及び財産の状況を調査し、もつて会計監査の職務を尽すべき義務があつた。

(二) ところが同被告らは、丸北において度重なる不祥事を起こしてその経営が圧迫され、また昭和五〇年以前から総高砂屋、東洋コーヒー、昭和工業その他多くの取引先との間で、金員の貸与、融通手形の交換等経営の破綻につながる危険極まりない取引をしていたことを早くから知り、あるいは丸北神戸営業所の諸帳簿を見れば容易にこの存在を確認できるにもかかわらず、仮に会計帳簿の内容が理解できないならば、その道の専門家に依頼してその調査をさせる等してこれを確認すべきであるのに、これら一切の努力をせず、疑問をとどめながら堺にすべての業務をまかせきりにして、前記手形の乱発を看過して放置し、その結果、第三者たる原告らに損害を与えたものである。

(三) すなわち、被告中村らは、その職務を行なうにつきその故意又は重大なる過失によつて堺による融通手形の発行を制止することができず、ひいてはその融通手形を正当な手形と主張させて不法行為をなさしめ、その結果、原告らに前記損害を被らせたのであるから、農業協同組合法三一条の二第三項及び商法二六六条の三第一項(但し被告三善及び同林久行については商法二八〇条第一項、二六六条の三第一項)の双方の規定によつて、原告らに対し連帯して損害賠償をすべき義務があるところ、同被告らのうち安田圭吾は本訴訟係属中の昭和五五年九月七日死亡し、その権利義務一切を、同人の妻である被告安田久子が三分の一、子である被告安田容子が三分の二の各割合で相続取得した。

5  よつて原告らは被告らに対し、前記3、4記載の根拠に基づき、請求の趣旨記載どおりの実損害金とこれに対する弁済期後である昭和五五年四月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、丸北が被告組合の生産物販売部門を独立させたものであることは否認するが、その余の事実は認める。

2(一)(1) 請求原因2(一)(1)の事実中、堺が原告ら主張の小切手を振出す権限があつたこと、手形は被告組合を支払場所とするもののみ振出す権限があつたことを認め、堺が番号1の手形に記名したことは否認し、その余の事実は知らない。

(2) 同(2)の事実中、原告らが堺に対し、本件各手形発行の事情につき電話で問い合わせたことは争い、その余の事実は認める。

(3) 同(3)の事実中、本件各手形につき破産手続によるほか手形金額の支払を受けることができなくなつたことは不知、その余の事実は認める。

(4) 同(4)の事実中、原告らがその主張のとおり破産手続による配当を受けたことは認めるが、その余の点は争う。

(二) 請求原因2(二)の事実及び主張は争う。

(三) 同(三)の主張は争う。

原告らは、その取引相手が信用度の低いものであることをある程度予見しながら厳格な調査をすることなく、貸倒れになる危険を補うだけの高利をもつて金員を貸付けることを業とする金融業者であり、本件各手形を割引いた際にも、右各手形が過去の取引状況から自転車操業に陥つたと推認される昭和工業から持ち込まれたこと、その際の、被告組合が弁済すべき代金を丸北が支払うため発行したという事情説明及び金融を業務の一とする農業協同組合の関連子会社が右のような手形を使用することの不自然さ、あるいは本件各手形の記載内容(額面、振出日)などからみて、右各手形が融通手形であり、危険を伴つたものであることを未必的にせよ予見しながら、被告組合が丸北との関係や体面から、これを不渡りにすることはあるまいと見込んで、電話等で容易に被告組合に問い合わせることができるのにかかわらずこれをせず、あえてその割引に応じ利得を得ようとしたものであつて、原告らの右割引行為は本件各手形の乱発に加担したものともいいうべく、このような事情を考えれば、原告ら主張の堺の行為と原告らの損害とは相当因果関係がないというべきである。

また、番号2ないし10の手形を割引いたのは、原告塩河の友人であるから、右割引によりその友人が被つた損害を同人自身が請求するというのであればともかく、右友人から本件各手形を不渡後何らの法的義務なく買取つたことによる同原告の損害は、前記堺の手形発行行為との間に相当因果関係がないというべきである。

3(一)  請求原因3(一)の事実中、被告中村らが被告組合の理事であつたことは認め、その余の事実及び主張は争う。

(二)(1)  請求原因3(二)(1)の事実及び主張は争う。

(2)イ  同(2)イ冒頭記載の事実は争う。

(一) 同(一)の事実は争う。

(二) 同(二)の事実は争う。組合員以外の者の出資もある。

(三) 同(三)の事実は認める。

(四) 同(四)の事実中、堺がもと被告組合に勤務していたことは認め、その余の事実は否認する。

(五) 同(五)の事実中、丸北の本店所在地が被告組合と同一地番として表示されていること及び昭和五三年ごろ以降被告組合の職員が丸北の事務を一部兼務して行なつていることは認めるが、その余の事実は否認する。

(六) 同(六)の事実中、丸北が原告主張の時期に欠損を出したこと、その際被告組合が丸北に八〇〇〇万円を出捐貸与したことは認めるが、その余の点は否認する。

ロ  請求原因3(二)(2)ロの主張は争う。

4(一)  請求原因4(一)の事実中、被告中村らの被告組合及び丸北における身分関係のみ認め、その余の事実は争う。

(二)  同(二)の事実は争う。

(三)  同(三)の事実中、安田圭吾の死亡とその相続関係は認めるが、その余の事実は争う。

三  過失相殺の抗弁

前記のとおり、原告らは本件各手形の割引に関与した際、これらが融通手形であり、不渡りとなる危険があることを未必的にせよ予見していたのにかかわらず、あえてこれを割引取得しあるいはその仲介をしたものであるから、この事情は損害額の算定にあたり十分考慮されるべきである。

四  抗弁に対する認否

争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1の事実については、丸北が被告組合の生産物販売部門を独立させたものであることを除き、当事者間に争いがない。

二<証拠>を総合すれば、堺が昭和工業の求めに応じ、丸北神戸営業所取締役所長の名義で番号1ないし15の手形を振出し、また番号16の手形を裏書交付したことが認められ(但し、番号1の手形には営業所長印は押捺されてはいるが、営業所長としての堺の署名も記名もない。)、右各手形を、原告ら及び原告塩河の友人が請求原因2(一)(2)記載の経過の下に取得したこと(但し、その際原告らが堺に対し手形発行の事情につき問合わせたことは除く。)は当事者間に争いがない。

三その後昭和工業及び丸北が倒産したことは当事者間に争いがなく、右事実に<証拠>を総合すれば、右両会社の倒産の結果、本件各手形を割引いた原告ら及びその友人は右手形金額及び利息の一部の回収が不能となつたことが認められる。そして、原告塩河が番号2ないし10の手形につき、自己の信用に基づきその友人をして手形割引に至らせたものとして、これを買取つたことは当事者間に争いがなく、結局原告らは、本件各手形の割引に関与したことにより、少くとも右各手形金額相当額の損害を被つたことが認められ、これを覆すに足る証拠はない。

四被告組合の損害賠償責任について

1  被告組合と丸北の組織上及び業務上の関係について

<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

被告組合は、その傘下の組合員の生産する農産物の販売をその事業の一部門とするところ、組合員の総意に基づき、その販路の拡大をはかるため、昭和四一年三月丸北を設立することを計画した。丸北は、当初の資本金一二〇〇万円につき被告組合員が約九割、非組合員(地区外酪農農家)が約一割の割合で出資し(その後昭和四二年六月六日に八〇〇万円増資して右増資分の株式を被告組合が所有し、更に同四九年五月二一日に四〇〇〇万円に増資するとともに、全株式のうち約五三パーセント程度を被告組合が所有することとなつた。)、代表取締役は被告組合の代表者格の理事(組合長)が兼任し、本店事務所を被告組合構内の組合事務所とは別棟の冷蔵庫の管理人室に置き(被告組合から貸借)、京阪神方面へ販路を拡大する最重要拠点として神戸市に神戸営業所を設置して発足し、まもなく洲本市に洲本営業所、そして事業の伸展に伴い神奈川県藤沢市に玉ねぎの加工貯蔵販売を主業務とする藤沢営業所を設置し、更に神戸市垂水区及び大阪府八尾市などには牛乳販売店をそれぞれ設けた。丸北の営業内容は、牛乳と玉ねぎの販売を主とし、牛乳は被告組合からすべて仕入れ、玉ねぎは当初被告組合地区民の産出するものを扱つたが、やがて右地区外からも仕入れるに至つた。そして被告組合が、同四一年九月当時被告組合の購買部主任の職にあつた堺を神戸営業所長として出向させてからは(他の従業員は丸北が独自に雇用)、主として堺の手腕により丸北の事業が順調に拡大発展し、その扱う商品も、野菜、砂糖、小麦粉、米、鶏卵、醤油と増大し、これらは被告組合以外から納入を受けるものも相当数量にのぼつた。堺は被告組合の従業員の地位を保持したまま丸北の神戸営業所長となつたが、右出向以後は丸北の業務に専念し、同四二年五月取締役となり、同営業所に関する限り、商品の仕入販売の一切を取り仕切り、これに伴い、丸北神戸営業所長として小切手の振出及び被告組合を支払場所とする手形の振出の権限を与えられ、遅くとも同五四年五月二五日からは神戸信用金庫に設けた当座預金口座を利用して、手形を振出すことも許された。ところが、丸北の営業成績は同四五年から同四九年ごろまでを頂点として頭打ちとなり、同五一年ごろには前記藤沢営業所において玉ねぎを腐敗させるという事故が発生して大損害を被り、これを契機として事業の縮小がはかられ、藤沢営業所は同五二年四月に閉鎖され、同じころ本店での営業活動も廃止され(事務的なことは後記のとおり被告組合理事が兼任する丸北の社長の指示のもとに被告組合の女子職員が代行)、丸北の業務の監視体勢を強化するため、同五三年五月から堺を除く取締役のすべてと監査役に被告組合の理事を就任させ、代表取締役に被告組合の組合長でない理事をあてるに至つた。丸北の会計処理は、終始被告組合とは別の全くの独立採算で行なわれ、資金繰りに窮したときは、被告組合の厳格な貸出手続を経て資金が融通された。丸北神戸営業所の業務監査は一か月に一回(同五四年ごろからは三か月に一回)、本店に堺と他の丸北の取締役、監査役が参集し(但し、被告組合所有の空室を借用)、取締役会を開くとともに、堺の作成した業務の経過報告書、決算書類あるいは必要に応じて堺の持参した帳簿類につき堺の説明を聞きながら検討するという形で行なわれ、そのほか毎年九月と四月に会計監査が行なわれていたが、丸北の役職にない被告組合関係者が右監査に積極的に(つまり堺を指揮監督する趣旨で)関与することはなかつた。

以上の事実によると、本件各手形を原告ら及びその友人が割引取得した当時、丸北の株式の過半を被告組合が所有し、丸北の堺を除く取締役及び監査役のすべてを被告組合の理事が兼任し、その本店事務所は被告組合の構内にあつたうえ、折にふれ丸北の業務のため被告組合事務所の空室が利用され、あるいは被告組合の女子職員が丸北の事務を代行することもあり、丸北神戸営業所の営業活動を主宰していた堺は終始被告組合の職員の身分を保持しており、丸北の営業内容においても、その主たる商品である牛乳はすべて被告組合から供給を受けるなど、被告組合と丸北とはその組織上、業務上極めて密接な関係があり、利害も一致していたことは否定しえないけれども、他方、丸北の株主には少数とはいえ組合員以外の者もおり、本店事務所も被告組合事務所とは別棟に置いて区別する配慮をし、堺は被告組合の職員の身分を有していたけれどもその業務には一切関与せず、丸北の業務に専念しており、被告組合女子職員による丸北の職務代行といつても少量の事務的なものにとどまつていたことがうかがわれ、丸北の取扱商品に被告組合以外からの納入品も少なくなく、被告組合から納入を受ける場合も、同組合が販売し、丸北が購入するという形態をとつており、その他の会計上の処理も被告組合と丸北の間に混同があることを示す証拠はなく、また、被告組合ないし丸北がその取引の相手方に対し、どちらが取引主体なのか分明でない形で応対したことがあることを認めるに足る証拠もないのであつて、これらの諸点を総合勘案すると、丸北は、その組織及び業務の両面において、被告組合と明白に区別された企業としての独自性を有し、取引社会において被告組合から独立した法人格者として存在し機能していたものと認めることができ、従つてその業務は、被告組合のそれとは隔絶された別個のものといわねばならない。

2 民法四四条一項による責任について

右責任につき原告らが主張するところは、堺の丸北営業所長としての業務執行行為が被告組合理事の指導監督の対象であることを前提とするが、右1に認定したところによると、丸北の業務は被告組合の業務とは別個独立のものであり、被告組合理事の監督のらち外にあるものと解さざるを得ないから、右原告の主張はその前提を欠き失当である。

3 民法七一五条の使用者責任について

右にみたように、堺の丸北神戸営業所長としての業務執行行為は、被告組合の業務の執行とは実質的にも外形的にも区別された別個の行為と解するほかなく、また、堺は当時被告組合の職員たる身分を形式的にはなお失つてはいなかつたけれども、同人の右業務執行関係において被告組合と堺の間に具体的な支配従属の関係があつたことを認めるに足る証拠はないから、この点に関する原告らの主張も採用することはできない。

五被告中村らの責任について

1 前記四1、2記載と同様の理由により、被告中村らが農業協同組合法三一条の二第三項の責任を負わないことは明らかである。

2  <証拠>を総合すると、前記堺の本件各手形発行行為は、丸北におけるその権限を濫用して融通手形を発行したものであり、しかも右に先立つ昭和工業に対する融通手形の発行は、昭和五一年以来既に三年間の長きにわたつており、また、本件各手形発行時の右融通手形発行残高は二億円にも達せんとする程であつたことが認められること、前記のとおり丸北の当時の資本金は四〇〇〇万円で、前掲甲第二〇号証によると神戸営業所の売上は年間五億ないし七億円くらいのものであり、同号証及び前掲甲第一六号証の二によると、丸北は営業活動の資金繰りに余裕はなかつたことが認められるので、これらを総合考察すると、本件各手形が不渡になる危険はその発行時に十分予見でき、右不渡になつた場合、丸北にこれを弁済すべき意思も資力もなかつたから、同手形の取得者に手形金額相当額の損害を与えることになるのは明らかであつたというべきである。そして、被告中村らのうち丸北の代表取締役であつた安田圭吾は、その職務上直接に、また被告三善及び同林久行を除くその余の、丸北の取締役であつた被告らは、丸北の業務執行の意思決定をし監査をする地位にある取締役会の構成員として、代表取締役を通じて、それぞれ堺が適正に業務を執行するよう指揮監督すべき義務があり、監査役であつた被告三善及び同林久行は、会計監査を通して取締役会及び代表取締役の業務執行を適正ならしめる職責があつたところ、<証拠>を総合すれば、被告中村らは、前記のとおり業務監査又は会計監査を行なう際、堺が作成して持参し、同人の発行した融通手形についても受取手形及び支払手形としてもらさず計上記載してある帳簿、営業報告書、決算書類等を、堺の説明に従つて見分しながら、通り一ぺんの形式的な監査をするに終始して、多数発行されている右手形が融通手形であることに気づかず、そのため、同被告らが右職務を忠実に遂行していれば遅くとも昭和五四年九月の段階で堺の融通手形の発行を、ひいては本件各手形の発行を未然に防止することができたのにこれをなしえなかつたことが認められる。

以上の事実によれば、同被告らは重大な過失に基づく任務懈怠の結果、堺に本件各手形を発行するに至らせたものというべく、その後原告らが同手形を通常の取引過程において取得したものである限り、その支払不能により被つた損害と同被告らの右重大な過失との間には相当因果関係があるといわざるを得ないところ、前記二、三で認定したところによると、前記原告らが被つた損害は、特段の事情のない限り同被告らの右重過失行為と相当因果関係があるものということができる。

被告らは、原告らが本件各手形が融通手形であることを未必的に予見していたと主張するが、そのように断定するに足る証拠はなく、単に右の点を予見できたというだけでは、後記のとおり過失相殺の事由にはなりえても、右相当因果関係の存在自体を否定することはできないものというべきである。

また、番号2ないし10の手形を原告塩河が友人から買取つた経過は、取引社会において通常起こりうべきこととして首肯しうるものであるから、その結果同原告に生じた損害も、右相当因果関係の範囲内にあるものと解すべきである。

ところが、番号1の手形は、振出人である丸北神戸営業所長の堺の署名ないし記名がないので、かかる手形が有効な手形として流通すべき理由はなく、従つてこれを取得したことにより生じた原告会社の損害は、右被告らの重過失行為と相当因果関係がないというべきである。

そして他に、右因果関係を否定すべき証拠資料はないから、被告中村らは原告塩河の被つた前記損害に対し、商法二六六条の三第一項(但し、被告三善及び同林久行に関しては同法二八〇条一項、二六六条の三第一項)に基づく損害賠償の責任を負うこととなるといわねばならない。

六抗弁について

<証拠>によれば、原告塩河が本件各手形の割引に関与したときには、右各手形同様の手形を日歩一五ないし二〇銭という高利で昭和工業のため割引し始めてから数か月たち、また割引高も急激に増大しつつあり、元本にして五五〇〇万円にも達していたことが認められることからみて、本件各手形が融通手形であつて、不渡になる危険があることは十分予見しえたのにかかわらず、同原告が不注意によりこれを覚知しなかつた結果、前記損害を被つたものというべく、右過失の割合は、被告中村ら五に対し、原告塩河五とみるのが相当であるから、同原告が同被告らに請求しうべき損害はその五割に相当する部分にとどまるものというべきである。

七そうすると、被告中村らは、各自、原告塩河に対し、番号2ないし16の手形の額面金額の半額の合計に相当する二四五六万一〇一〇円の損害賠償に応ずべき義務があるところ、そのうちの一人安田圭吾は本訴訟係属中の昭和五五年九月七日死亡し、その権利義務一切をその妻安田久子が三分の一、子安田容子が三分の二の割合で相続取得したことは当事者間に争いがないから、右久子は八一八万七〇〇三円、容子は一六三七万四〇〇六円を各支払うべきこととなる。

八よつて、原告塩河の被告らに対する請求は、被告組合を除く被告らに対し、右七記載の各金員及びこれに対する本件訴状送達の日の後である昭和五六年一二月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金(同年一一月三〇日までの分は同原告自認の破産事件による配当金によつて損害が填補されたものと認める。)の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求及び原告会社の被告らに対する請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中川敏男 裁判官東 修三 裁判官石井教文)

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